〜メグロの小部屋〜:500cc・Z6 メグロ伝統の500cc車・Z5からモデルチェンジしたZ6。1955年5月より製造され'56年3月までの一年余りに711台が生産 されている。 Z5からの主な改良点である機関性能改善は、特にエンジンヘッド部に集中している。オートレースでの成績やレーサーマシンの開発改良で 得られた経験と結果から、従来の機構から大きく変化したカムシャフト。そして2mmも拡大したインレットバルブの直径。オイルによる冷却 容積の拡大の為に大きくなったヘッドカバー、そしてタペット調整口の楕円カバーに刻まれた「メグロ」のロゴ。この設計変更で最大出力は Z5の18HP/4000rpmから20.2HP/4400rpmまで向上している。またクランクケースに刻まれた放熱フィンは廃止。 この改良を要求したのは警察庁であったと云われる。意外であるが、戦前期に僅か10台だが白バイとして採用されて以来、戦後この時まで 正式には白バイへの採用は無かったのである。理由は、旧日本陸軍による軍用バイクの選定基準となっていた排気容量にあったようである。 明文化した基準ではなかったが、当時のオートバイの性能から、排気容量の大きいバイクは出力も大きくスピードも出る、と云った単純な論理 で、1リッターを超えるようなオートバイを要求していたとされている。このため終戦後以降、この条件に最も近いとされた陸王号だけが 白バイとして採用が続けられていた。ところが1955年頃からメーカーである陸王内燃機製造の業績が悪化し、安定的に白バイを供給する ことが怪しくなったのである。そこで警察庁から白バイ供給に関して選定されたキャブトン号のみづほ自動車、ホスク号の日本高速機関、 エムロ号のヘルス自動車(三笠技研)に並び、メグロも候補とされたのだが、Z5では500ccクラスに在っては他社に比べ非力であった。 ただ耐久性や安定性で定評のあったメグロは有力候補であり、メグロとしてはこの要望に応えた結果がZ6であると云えよう。 結論から観れば、Z6はキャブトン号と共に戦後初めて白バイとして採用され、その後は業績悪化で退出していった陸王号、そしてキャブトン 号に替わり、次期モデルのZ7、そしてK、K2へとメグロが白バイ需要を独占する時代が始まるのであった。 この出力向上に伴い最高速度は120km/hにもおよぶことから制動部及び駆動部の改良もされた。ブレーキハブは従来の片ハブから、摺動面 が広い全幅式に前後輪共変更になっている。またプライマリチェーンは二重にして強化されて、ドライブチェーンは高速走行時の飛び石や 土埃の影響を受けにくい全覆チェーンカバーが採用されている。 車体はZ5を踏襲しており外装の前後フェンダー、マフラーそして燃料タンクの意匠が変わった程度である。フェンダーは従来に比べ幅の有 る裾の拡がった形状で、路面の悪い当時の道路事情に考慮したモノ。マフラーはいわゆるキャブトンタイプの共鳴消音式からモナカマフラー とも称される吸音装置式に替えられ、燃料タンクの意匠はZ5で各クラス共通となったデザインから改めてクラス別の意匠となった。500 ccクラスはメッキにバッヂ周りを楕円模様塗りとした仕様とした。以降のZ7、K、K2そして自動二輪の300ccクラスからとした後のYA やJ−8アーガスも踏襲する。 専ら白バイ専用車のようなZ6は早々に再度改良が加えられてメグロで最も有名となったZ7「スタミナ」へと引き継がれた為、僅かの期間に 700台程度生産されただけであることから残る車の少ない型式ではあるが、今後出てくる可能性は高いかと思う。 ・・・主要諸元・・・ ・全長:2200mm ・全幅:820mm ・全高:1085mm ・軸間距離:1440mm ・車輌重量:213kg ・機関型式:C型:単気筒OHV4サイクル ・総排気量:498cc ・最大出力:20.2HP/4400rpm ・最高速度:120km/h ・燃費:28km/リットル ・変速機:前進4段ロータリー ・タイヤ:(前)3.25×19−4 /(後)3.50×19−4 ・始動方式:キック