〜メグロの小部屋〜:500cc・Z5 メグロ伝統の500cc車が始まって以来、ようやく全面的にモデルチェンジを施したZ5。1953年2月より'55年5月まで製造され 3028台が生産される。メグロにとってはエポックメーキングな一台。"Z4"にならなかったのは、"4"が"死"につながるという忌みを 嫌っての事という。 戦前期から伝統の単気筒498ccエンジンは、基本は引き継がれているが、機構の配置見直し(ダイナモの採用)やオイルポンプの改良(弁式 から歯車式に変更)など時流に合わせて実施された。そのため外観が大きく変化している。特にカムギヤカバーが同機構の250ccジュニアと 似た形状となるが、誰の目から見ても英トライアンフの車に近い。確かにメグロはこの時期、オートレースに於いて活躍するトライアンフを 研究し、その良い部分を吸収しようとしている。しかしながらメグロは自身なりに250ccジュニアの開発で基本的な構成を完成させており、 機構の配置見直しでカバーをデザインした結果がトライアンフ的になったと云うべきであろうか。性能は以上の改良による結果、最大出力は 18HP/4000rpmに向上している。なお初期のモデルはZ3と同様の部品を使用しているため、排気が2ポートのままであるが、直ぐ に1ポート化されている。 Z5でもう一つ特筆される事柄として4段ロータリー式トランスミッションの開発と採用であろう。今でこそビジネスバイクなど実用車で 採用されて知られるロータリー式であるが、基本的構造を開発したのがメグロであった。これによって手動3段であった500ccクラスも フット式になったのであるが、これには当時の免許試験場での実技車に手動変速車が使われていたのが、ようやくフット式での実技実施と なったことが要因でもあった。キャブトンなど他の大型車メーカーが先んじて採用していたフット式にメグロも遅ればせながらロータリー式 トランスミッションの開発によって採用となった。なおトランスミッションも英国車方式で開発されたことで、右側操作式となり、メグロは 右チェンジが基本として続くのである。 メグロらしい逸話に、手動式に慣れた愛乗家からの要望により手動操作出来るようになる改造オプションパーツを用意して販売されたと云う が、思うほど希望する顧客が無く早々に廃止されたそうである。もし手動変速のZ5が残っていればかなり稀少ではあろう。 車体外観はZ3のフレーム構成ながら、前照灯ケースをデザインして、当時やはりトライアンフが好んで採用していたナセルと云われる意匠 として高級感を増している。ハンドルスポットまで覆う広い甲羅状の上面にメーターやキースイッチを配置。 ロータリー式トランスミッションの採用でポジションが判りやすくするよう設置されたニュートラルポジションランプなど、メグロならでは の親切設計。ちなみにポジションランプの採用もメグロが始めたことのようである。 更に現在のポジションランプに相当するサイドランプと呼ばれたマーカーをナセルの左右に配置。これはメグロ独特の意匠となって、ほかの 350ccY型レックス、650ccT1セニアでも採用されることとなる。なお、これにもオプションとして点滅電照式方向指示器(ウィンカー) としても機能するよう改造パーツが用意されていた。 燃料タンクは初期のモデルはZ3と同様の意匠としてメグロウィングのマークもそれまでの多色印刷シートからの転写(トランスファー式) であったが、直ぐに高級感のあるお馴染みの七宝焼きのバッヂの採用を始めている。最末期には意匠が250ccジュニアなどと共通化されて S3、S−8でお馴染みのメッキに塗り模様の仕様であった。また塗装はエナメル塗料による吹き付けとなったが、耐候性に難点が在り、劣化 すると塗膜がパリパリになり剥がれることがあり、後には静電式焼き付け塗装を採用している。 尾灯も変更されて、トライアンフなど英国車の影響か英ルーカス社の電装用製品に似たタイプを採用するなど、以降のメグロスタイルを確立 した。 現在まで残る車は少ないが、10台程度が雑誌などでコレクター所有の車として紹介されており、まだ出てくる可能性は高いかと思う。 ・・・主要諸元・・・(後期型) ・全長:2180mm (2160mm) ・全幅:780mm ・全高:1030mm (1035mm) ・軸間距離:1400mm ・車輌重量:202kg ・機関型式:B型:単気筒OHV4サイクル ・総排気量:498cc ・最大出力:18HP/4000rpm ・最高速度:110km/h ・燃費:28km/リットル (35km/リットル) ・変速機:前進4段ロータリー ・タイヤ:(前)3.25×19−4 /(後)3.50×19−4 ・始動方式:キック