〜メグロの小部屋〜:350cc・Y2レックス メグロ350cc・Y2はミドルクラス"レックス"の更新モデルとして1957年3月から'59年2月までの約2年間に1050台が製造 された。Y2レックスはメグロとしては珍しく実験的量産車として位置付けられたモデルで、その外観からもメグロの他車には観られない 構造上の特徴が判る。 Y2にはメグロ初にして唯一とも云える合成フレームが採用されている。この頃他の主なバイクメーカーは車体構成に鋼板をプレス成形した 部材を溶接組立してフレームとした構造が主流に成りつつあった。この様式の特徴としてはフレームを外殻構成(モノコック)に造ると中空と なる内面部に機関などを納めることができて部材の鋼板が薄くできる割に軽くて剛性のあるフレームができる。そして従来のパイプフレーム に対して製造工数が削減できることによるコストダウン。また量産数が多くなるほど高額なイニシャルコスト(プレス用の金型費など)を製品 に薄く拡く転嫁できることから大量に売れる小型バイクほどその効果が期待できた。 メグロはそのような国内バイクメーカーの状況と海外メーカーでのデザイン的理由によるプレス部品の活用を参考として、メグロ独自に実験 したと思われる。ホンダや昌和のようにモノコック構成としなかったのはメグロ的デザインの維持か、もしくは重たい機関搭載に耐えうる様 に必要箇所には従来のパイプフレームによる構成としたのではないだろうか。実車で判るとおりプレス成形部材による部分は機関後位サドル 付近から後部で当時小型車で人気の出ていたモペットデザインを意識したような丸みのあるプレス部品ならではの意匠である。前モデルの Y型レックスと比較するとそのスマートさが際立って見える。 また後輪懸架方式には上級車と揃えてスイングアームを採用。実用車ながら走りも重視した設計となっている。ただヘッドライトケースなど は前モデルに比べてシンプルな構成になり、これは同時期のメグロ各車に合わせた仕様である。 もうひとつY2レックスが初めて採用した技術に特殊鋳造プロセスによる鋳物鋼"センダイトメタル"がある。センダイトメタルは、東北大学 金属材料研究所の本間正雄博士による基礎研究の結果、独特の強靱鋳鉄製造法(特許)として発明された鋳造プロセスである。メグロではこの 技術を自社内に取り込み、その特性が発揮されるシリンダーブロック部用の鋳物製造工程に活用、Y2用であるL2型:単気筒OHV4サイクル 機関に使用している。センダイトメタルは同じく650cc・T2セニアにも使用してその有用性を確認。以後メグロの新型車すべてに使用 されることになる。機関としては他に前モデル用のL型との違いを観ることは少ないが、センダイトメタルの使用によってか性能は13.0 HP/4000rpmから16.0HP/5200rpmへと飛躍的に向上している。 メグロの意欲作になったY2ではあるが、実験的要素であるためか失敗した部分も見受けられる。当初に期待されたプレス部品の活用による 軽量化は従来のパイプフレームとの合成フレーム化により半端なモノとなり結果、前モデルのY型と比較すると178kgから186kgへと 重くなっている。このような失敗は軽量部材の採用されはじめた当時にはありがちな事柄で、有名なホンダのスクーター・ジュノオでの失敗 (当時、軽くて強い先端部材と注目された強化プラスチック・FRPをボディーに採用、軽量化を目指したが逆に重く成りすぎて失敗とされた)の ように、材料自体は軽くて強いものであっても設計方法が未熟で応力データが未解明な当時では適正に使用できなかったことが要因である。 しかしこのような試行がベースとなり、現在の軽量かつ高剛性なフレームが実現しているのである。 もうひとつ目論見が外れたのが製造工数の削減によるコストダウンで、Y2は小型バイクのような大量に売れるモデルではなかった。その 結果、高額なイニシャルコストはそのまま製品にのし掛かり赤字になってしまうのであった。メグロの主力製品が中型以上の重量車で最多の 販売モデル"ジュニア"でさえ月産数千台程度ではプレス部品の多用は難しかったと観られる。結局、以降メグロではプレスフレームは採用 されなかった。 販売面でも350ccというミドルクラスは人気が低くなり、より高性能でスタイルも良くなった小型バイクへと市場が移りつつあり、僅か に一千台の実績に留まる。'59年に高性能OHC4サイクル機関を採用した新モデルの登場により、メグロのミドルクラスはスポーツモデルと してYA型へと引き継がれる。製造台数が少ないために残存数はかなり少ないと思われる。 ・・・主要諸元・・・ ・全長:2190mm ・全幅:820mm ・全高:1050mm ・軸間距離:1435mm ・車輌重量:186kg ・機関型式:L2型:単気筒OHV4サイクル ・総排気量:348cc ・最大出力:16.0HP/5200rpm ・最高速度:110km/h ・燃費:40km/リットル ・変速機:前進4段ロータリー ・タイヤ:(前)3.00×19−4 /(後)3.25×19−4 ・始動方式:キック