〜メグロの小部屋〜:350cc・Yレックス メグロ350cc・Y型レックスは、ミドルクラスシリーズのモデルとして1953年7月から'56年12月までの3年間に 3100台が製造された。 すでにあった300cc・J型が、ライトクラス「ジュニア」シリーズのアップバージョンであったのに対し、「レックス」は メインクラスの500cc・Z型を乗りやすく、そして軽くした仕様であった。この頃免許制度の改定により、軽二輪車の範囲 が250cc未満となり、300ccクラスが二輪自動車とされたことから、250ccクラスと分離したこのクラスの充実を 企てたものと思う。 外観は初期のモデルが500cc・Z5に似た構成に、同様の塗装デザインとしている。後期型は燃料タンクの装飾が「ジュニア」 的に変化し、ライトケースがZ5同様サイドランプ付きのハイグレード仕様にしている。トランスミッションは500cc・Z5 から採用されたメグロ独自開発の前進4段ロータリーを装備、グレードの高い仕様である。 機関は、Y型用に開発された348cc単気筒OHV4サイクル、13HP/4000rpmで、Z5同様タイミングカバーに「メグロ」 のロゴがある。 画期的であったのは、この開発に際してオートバイの操作安定性に関する研究を開始したことである。当初はオートレースに於いて 安定した操作を得るにはどの様な条件が考えられるか具体化しようとオートレースの基金を活用した旧通産省からの研究補助金 給付を受けて、これを基に昭和27年から東京工業大学の近藤教授の研究室に解析依頼を掛けたことに始まる。  そしてキャスター角度と重心位置の関連が解明された結果が反映されたのであった。今で言う産学共同による研究はまだ珍しく、 他のオートバイメーカーではそこまで考慮した開発を整えるところはまだ無かった。 Y型レックスのエポックといえば'54年ブラジル・サンパウロで開催された開市400年を記念した国際モトレースへの参加 であろう。 日本政府は国際親善のため、サンパウロ市に桜の植樹とレースへの参加を決める。ところがこのレースに関して当時の通産省は 内容を把握できず、一時棚上げ状態となる。日の目を見たのは偶然、担当者からレースに招待されているという話を聞いた人物 の尽力によるものであった。その人物とは日本人として初めて英マン島T・Tレースに出場した多田建蔵氏である。当時氏は国内 のモータースポーツの進展に努めるなど二輪車産業界に影響力もあった。 早速この件を日本小型自動車競争連合会に持ち込み国内バイクメーカーへ参加の希望を打診する。しかし当のレース主催者から、 参加意志の回答が来ないので不参加として参加経費の予算が出せないとの連絡があり、自費出場に難色を示したメーカーは辞退 してしまったのである。 この時、それでもまだ出場を考えていたのが本田技研と目黒製作所の二社であった。レース主催者には参加を改めて希望すると 表明し何とかこの二社の選手の内1名分の招待費用を認めさせて後の経費は二社の折半と云うことで出場が決まったのであった。 二社ではレーサーマシンの準備を進め、メグロはレーサーのベースとしてY型レックスを使ったのである。 結論から言えばこのレーサーマシンは出場しなかった、と言うよりできなかったのである。現地に入った後公式走行練習の最中、 転倒事故を起こす。マシンは大破したものの何とか直して本戦に間に合う目途があったが、レーサー田代勝弘 選手の傷状が思わし くなく、早々に不出場を決めたのであった。 結局本戦にはホンダのR−125のみが日本からの参加となり、それなりの成績は残したが、社長・本田宗一郎はこれを良しと せず、海外でのレース参戦意欲をもって英マン島T・Tレースを目指す目標を得る。 メグロにしてみれば、政府から選抜されただけで栄誉であり、アクシデントで無理に参戦して惨敗を期す必要もなく、急ぎ変わり の選手を無理してまで派遣する考えは無かったと思われる。追加の資金援助もなかったろう。 もし、ホンダがメグロの立場であったらどうだろう?おそらく本田宗一郎は自費でも選手を用意して本戦に間に合わせようとした のではないだろうか。その後の両社の成り行きを思うと興味あるところである。 メグロのラインナップにおいて「レックス」はどうも中途半端で地味なモデルと思われるが、必要馬力からするとこのくらいが 使いやすかったと考えられ、商用車などの実用に向いていたのである。後に「ジュニア」が250ccで同性能を発揮できるよう になると、このクラスは新開発の325cc単気筒OHC4サイクル機関によるスポーツモデルに変化する事となる。 ・・・主要諸元・・・ ・全長:2155mm ・全幅:780mm ・全高:1035mm ・軸間距離:1400mm ・車輌重量:178kg ・機関型式:L型:単気筒OHV4サイクル ・総排気量:348cc ・最大出力:13.0HP/4000rpm ・最高速度:100km/h ・燃費:40km/リットル ・変速機:前進4段ロータリー ・タイヤ:(前)3.00×19−4 /(後)3.25×19−4 ・始動方式:キック