〜メグロの小部屋〜:50cc・MAアミカ(MAS アミカスポーツ) 中大型バイクが主力であったメグロが時流に合わせて初めての原付クラスとして企画したのがMAアミカである。1960年6月から試作を 開始、10月には完成させて直ぐさま開催された第七回東京モーターショーに同期開発された500ccクラスのKH型(K・スタミナ)と共 に出展公開され人気を博した。直後より完成した専用ラインを使って量産試作100台余りを製造、全国の総代理店組織「メグロ会」の加盟店 へと貸与されて各地で展示会や発表会が実施され関心を集めた。 しかし折からの業績悪化に加え、同時期に交渉が具体化しつつあった川崎航空機工業(株)との業務提携により、カワサキの主力製品であった 小型バイクとの干渉を嫌って市販直前に販売中止にされたと云われる。またカワサキが得意とする2サイクル車はメグロからは造らないとし たと云う説、または翌年2月より激化したいわゆる目黒争議により他の主力製品に注力する必要から生産計画が成り立たなくなり中止された と云う一説もあり、何れにしろ商機を逸したことによる発売中止と云えよう。 メグロが50cc小型バイクを企画した背景には、主力の中大型バイクではこれ以上の飛躍が望めなくなっていたことにより、新規の顧客層 の獲得を狙っていたと云えよう。当時既にホンダはスーパーカブを発表して以来、原付の実用車として驚異的なシェアを占め始めていた。この ため多くの実用車メーカーは淘汰され、または類似商品によって便乗して乗り切ろうとする有様。メグロとしても少なからず影響を受けてい た。また三輪自動車メーカーであったダイハツからは圧倒的な低価格と宣伝活動によりシェアを伸ばして行く「ミゼット」が登場し大型実用車 バイクのシェアを侵し始めていた。実際に「ミゼット」の営業マンがメグロの客先にアピールしていたと云われている。 そのような状況にメグロとしては国内オートバイの販売シェアに占める割合が大きく伸びていた小型バイク、それもスポーツバイクに焦点を 合わせて新規参入を試みたもので'58年より50cc小型バイクの開発企画を始める。 当時はスポーツバイクも含めて原付クラスバイク(スクーター以外の)をモペットと称していたようで、メグロは後発であることを意識してか 国産モペットにはない特徴的なモペットの開発を目指している。全体の構成(スタイルデザイン)開発には250cc・F型の開発に於いて中心 的な役割を果たしていた外部の専門家、インダストリアルデザイナーの由良玲吉氏を再度起用し依嘱している。由良氏によると、メグロからの 要望は、趣味性を重視したスポーツ仕様で、かつ軽快でスマートな形態をコンセプトに考えていたようである。由良氏は自身の渡欧経験から モペットの先進地域であったヨーロッパでどのような小型バイクに人気が出ているかを考慮してその事情を基に今後流行するであろうバイ クスタイルを提案する。それは直線を強調する外観に軽量なスポーツ仕様とされ、参考に挙げられたのはモトグッチ・カルデリーノ、NSU・ キャバリーノと云ったモデルであった。 メグロは基本仕様として50cc単気筒4サイクル機関による前進3段もしくは遠心クラッチによる自動変速、駆動はシャフトドライブと 野心的であったが、実際試作が始まると4サイクル機関による小型軽量化には限界があるとしてメグロとしては初めて2サイクル機関を新規 開発することになる。MI型:単気筒2サイクル機関はボア×ストロークを40×39としてスポーツモデル向けに考慮した高回転・高馬力の 特性を有した仕様となったが、メグロの企業コンセプトでもある実用性への配慮から当初の計画仕様であった前進3段もしくは遠心クラッチ による自動変速、駆動はシャフトドライブは、従来からの前進4段チェーンドライブというオーソドックスな仕様に変えてトルクの太い扱い 易いバイクにまとめられた。機関設計はメグロ技術陣の若手ホープ林政康。林は当時20歳代ながら新規開発中の各モデル用機関の開発を 任されて、初設計の125cc・E3より以後CAキャデットなども手がけている。中でも後にカワサキWシリーズのベースになるK・スタミナ 用機関KH型:二気筒OHV4サイクルを手がけたことで知られている。 機関も含めて外観のデザインについては先の通り由良氏がスーパーバイザーを務めている。そのフレーム構成はあくまでも直線にこだわり、 極力軽量化するためパイプを背骨のようにハンドルヘッドからリアショックの結点、更に最後尾までを一直線に配し、これに機関をつり下げ るために逆台形のハンモック形ベースがパイプで構成されている。機関はこのベース下部に取付ステーを設けて取り付けられ同じ取付ステー にはリアのスイングアーム結点とメインスタンドが配されて、見るからに軽量化とデザインが調和した好ましい形態が完成している。 外装は参考にされた欧州メーカーによるスタイルと国産メーカーが販売していたスポーツバイクを折衷したような小振りで長方形に近い角 張ったフェルタンク、シートはタンデムシートにもなりそうなロングシングル、逆台形のハンモック形ベースを活用して配されたバッテリー とツールボックスはすっきりしたカバーに隠されているのでまるでバッテリーレスのようにも見える。エキゾーストからマフラーにかけても スポーツバイクを意識してアップタイプの仕様。また当時は義務ではなかったウィンカーとテールランプは既に国産メーカーが販売していた モペットでは常態化しているためから装備されて、前頭のウィンカーは両間250mmを得るためにハンドル両端にハンドルスイッチと一体化 したユニットとして取り付けられ、当初の企画通りのスッキリした外観を実現させている。 アミカにはユーザーの幅を拡げて置くためにやや機関性能を抑えて実用的外装(サドルシートにキャリアー)の基本仕様としたスタンダード (MA)と、本来のスポーツ仕様(ロングシングルシート)であるスポーツ(MAS)が用意されている。またスポーツは外装の違い(特にリアキャリア の形状)により更に二種類の仕様が設定され、都合3タイプが企画されていた。 市販直前にあったアミカは、当時アマチュアレースでも人気のあったホンダCR110やトーハツランペットなどにも見劣りしないデザインとし て優れているように思うが日の目を見ること無く企画中止となり、量産試作された100台余りのアミカと先行量産されていた機関は早々に 廃棄解体処分されたと云われている。 ただ展示会に於いてとは云え実車が一般の目に触れたことは史実であり、全国の「メグロ会」の加盟各店に貸与されてからの販売中止と云う 状況を観ると、奇跡的に未返却の車が存在しないとも限らないが、今のところ現車は存在しないとされている。 今、流行しているレトロ原付スポーツモデルの隆盛を観ているとアミカのようなモデルは結構、受け入れられるのではと想像するのだがどう であろう? ・・・主要諸元・・・(MAS) ・全長:1760mm ・全幅:650mm (610mm) ・全高:1000mm (900mm) ・軸間距離:1135mm ・車輌重量:74kg ・機関型式:MI型:単気筒2サイクル ・総排気量:50cc ・最大出力:4.2HP/7500rpm (4.5HP/8500rpm) ・最高速度:80km/h (95km/h) ・燃費:90km/リットル ・変速機:前進4段ロータリー ・タイヤ:(前)2.25×17−4 /(後)2.25×17−4 ・始動方式:セル