〜メグロの小部屋〜:350cc・FY / YAアーガス(アーガス スポーツ) メグロの300ccクラスはJ3型に始まり、続く350cc・Y,Y2型に引き継がれていたが、'59年頃には他社の軽二輪クラスに劣る性能であり、 またメグロ300ccクラスが主な顧客としていた運搬用実用車市場は軽三輪「ミゼット」やモペット「スーパーカブ」の登場と人気によって、 離れ始めていた。 そこで、この時250ccクラスのスポーツ車として登場しながらユーザー層の違いから不振であったF型をベースとして、メグロの350cc をスポーツクラスと位置づけ、F型の車体と装備をそのままに機関をボアアップした新350cc車・FYを'59年4月に登場させた。 しかし、外観からはF型と違いの見いだせないFYは性能内容からのアピールが浸透せず、F型の亜流車と観られたのか5ヶ月間に僅か18 台の実績と、全くと云うほどに売れていない。 そこで'59年11月のモーターショーに合わせてコンセプトを見直され9月に公開されたのが350ccスポーツ車・YAアーガスである。 FY / YAアーガスのYAH型:単気筒OHC4サイクル機関は、F型のFH型機関ボア×ストローク:68×68.5を74×75.5に拡張 したのみで、構造的な違いは無い。ただ総排気量は350cc車とは云え正確には325ccである。FH型機関と同じく変速機は内蔵の一体式。 シリンダヘッドはアルミ合金。シリンダは特殊鋳造プロセスによる鋳物鋼センダイトメタル製のシリンダスリーブをアルフィン処理と同様。 最大出力は19.5HP/5500rpm、最高速度は120km/hと、スポーツ車として十分な性能である。 車体はFYがF型と同一の仕様であるのに対して、YAアーガスはフレームこそ共通ながらスポーツ車をアピールするデュアルシートを標準 装備とし、リアフェンダー後部には専用キャリア(荷台では無い)が付けられて凝ったデザイン。エキゾーストパイプとマフラーは、いわゆる アップ仕様となって当時のスポーツ車お決まりの形態。ドーム型の燃料タンクはF型後期のメッキに黒色模様と同様ながら自動二輪車クラス の共通仕様であるメッキにバッヂ周りを楕円模様塗りとした。 YAアーガスにはモーターショーに於いて特別注文車・アーガススポーツが公開されている。アーガススポーツは、YAアーガスに特別装備と して、レーサー用にメグロが自社開発したキャブレターを使用。また各部に浅間火山レースやオートレースでの成果による仕様が施され、性能 も多少向上した内容であったらしい。注文生産車であったが販売実績はなかった様子で詳細も不明である。 FY / YAアーガスは'59年4月から'62年の生産終了迄に597台が製造されているが、その大部分はYAアーガスである。メグロの スポーツ車としては十分ながら、ライバル他社のスポーツ車と比較して主張できるポイントが少なく、インパクトが弱いことが、この数字から 判るのではないだろうか。この車をアピールできた唯一の実績は、第二回浅間火山レースでのセニアクラス優勝だけであり、それも350cc車 ではない。レーサー技術によるエンジンではあったが優勝マシーンそのものでもない。他社のようにほとんどレーサーと同じスペックによる スポーツ市販車に注目が行った市場においては、メグロのスポーツ車が入り込む余地など無かったのかもしれない。 メグロのスポーツ車は、その後メグロ伝統の500ccを引き継いだK スタミナの登場により初めて注目を浴び、実績を伴うことになる。図ら ずもメグロらしいスポーツ車とは、最もメグロらしいカタチの中にあったのである。 ・・・YAアーガス主要諸元・・・ ・全長:2080mm ・全幅:745mm ・全高:1000mm ・軸間距離:1340mm ・車輌重量:166kg ・機関型式:YAH型:単気筒OHC4サイクル ・総排気量:325cc ・最大出力:19.5HP/5500rpm ・最高速度:120km/h ・燃費:40km/リットル ・変速機:前進4段ロータリー ・タイヤ:(前)3.00×18−4 /(後)3.25×18−4 ・始動方式:キック