〜メグロの小部屋〜:170cc・DAレンジャー メグロ170cc・DAレンジャーは、1960年7月にデビュー。125cc・CAキャデットのボアアップ仕様との位置付けにより、 フレーム・エンジン共に基本的には共通であった。 月産300台をベースに生産計画がなされるが、1963年7月までに2432台生産されており'64年までに約3000台程度が製造 されたと考える。 当初はスポーツモデルとして企画された様子で1959年のモーターショー発表時には、いわゆるスクランブラータイプのアップマフラー と云う仕様の試作車であった。しかし量産に際して250ccクラスを小型バイクの価格で提供しようとするコンセプトに変えられて、 性能は250cc、価格は125ccに近いと云う内容となった。 機関はDAH型164cc単気筒OHV4サイクルである。先の通りCAのCAH型からのボアアップ仕様と観てよいが、細部に独自の特徴 を持つ。CAではセル・ダイナモによる始動性の向上のために手動デコンプ機構を装備させていたが、排気量の拡大に伴う圧縮抵抗への 対応と、始動時の操作性向上(CAでは手動のためにセル操作とのタイミングが難しいと云われる)のため、DAでは新たにセル起動と 同時に自動的にデコンプが作用するよう、メグロが開発した電磁作動によるデコンプ機構を採用搭載した。 マグネチック・バルブリフターと称されるメグロ独自の特許機構で、セル起動によりセルモーターの負荷電流値(DAでは100A)を回路途中 のリフターリレーで感知し、超過値でリレーが作動。これによりデコンプ機構を作動させるソレノイドへの回路が構成される。 ソレノイドの起動によりエンジンヘッドカバーに装備されたデコンプレバー(排気バルブを強制的に押し下げて燃焼室内の圧縮圧を抜く・ CAより既設)をケーブルワイヤーで引く仕掛けであった。 エンジンが始動すればセルモーターの負荷が低下するので負荷電流値が規定値より下がり、リフターリレーが作動解除してソレノイドの 起動回路はOFF、デコンプは自動的に解除される。 このデコンプ機構によってセル起動は簡便となり、同時にセル起動によるバッテリーへの負荷軽減もできると云うアイデアでした 同機構装置は同時期に主力商品となっていたS7にも改良装備がなされ、セルモーター装備と12v化と共に搭載される。後にAT、S-8 そしてSGT、SGまで、セルモーター装備各車に標準搭載された。 ただ実効面ではどれほどであったかは疑わしい。元々OHV機関はOHC機関と比べ始動性が悪くセルモーターへの負担は大きいようであるが デコンプ機構のソレノイド作動によるバッテリー負荷が思いのほか大きく、また仕掛けも複雑であるためか不具合も多い様子で、実際に 活用する使用者は少なかったと云われる。 500ccクラスでさえキック始動で十分と考えていた多くのメグロユーザーには不必要な過剰装備であったのかもしれない。 ほかにCAとの相違で観れば、デコンプレバーに接続する操作用のケーブルワイヤーの引廻し方が異なる。CAでは手動であるため操作 レバーの在るハンドルからエンジンヘッドカバーの上方へと引かれ、またワイヤーはヘッドカバーのステーに固定されているので、実際 にデコンプレバーを動かしているのはケーブルワイヤーのアウターである。DAではデコンプ機構を作動させるソレノイドがエンジンの 下方に設置されるので、ケーブルワイヤーはエンジンヘッドカバーの下方から引かれている。ヘッドカバーはCA・DA共通であるから DAではステーにアウターが固定されワイヤーがデコンプレバーを動かす本来の作動方式となっている。 外装面での相違は、ライトケースに在るライトリムがS7的なCAに対してS3やS−8的な鍔付きである。燃料タンクも、それ自体は 共通ながらニーパッドの形態が、饅頭型のCAに対してDAでは三角おにぎり型(やや角がある)に微妙だが変化している。またタイヤ サイズもリアを3.00×17−4と太くして路面走行性を向上させている。この仕様はCAにもフィードバックされて共通化された。 おかしい点ではチェンジペダルに相違が在る。CAでは前進4段ロータリーながら踏み返しの無い一般的なレバー式で好評となったが、 DAでは何故か異形なシーソー式に。それも踏み返しが踵では無く踝辺りに在り、当時の雑誌によるインプレッションでは「使えない ペダル」との酷評が付けられている。 メグロにあってあまり目立つことの無いDAレンジャーであるが、バランスの良い性能で思いのほか扱い易いバイクとの評価が、当時の 雑誌インプレッション記事に在る。実用車からスポーツ用途まで活用できる素質が在るとされて、1962年3月には自衛隊の装備用途 への適性調査対象バイクにホンダの150cc車と共に選ばれて防衛庁にサンプル納入がされている。本採用はされなかったが軍用への 足掛かりはメグロの市販二輪車第一号である500cc・Z97以来であった。 またDAはその汎用性が買われてかCAに次ぐ台数が海外輸出されている。発売直後の1960年度には生産119台の内、113台が 輸出とされて、その内76台は遠くパキスタンへと渡っている。DAは輸出対応車としての側面も持っていたようである。 現存する車はやはり少ない。 ・・・主要諸元・・・ ・全長:1925mm ・全幅:700mm ・全高:980mm ・軸間距離:1275mm ・車輌重量:126kg ・機関型式:DAH型:単気筒OHV4サイクル ・総排気量:164cc ・最大出力:10.0HP/6000rpm ・最高速度:110km/h ・燃費:55km/リットル ・変速機:前進4段ロータリー ・タイヤ:(前)2.75×17−2 /(後)3.00×17−4 ・始動方式:セル・キック