〜メグロの小部屋〜:ワークスレーサー・ブルー・メグロ 昭和25年法制化されたオートレースの為に政府補助金を得て開発された、メグロによる戦後最初の純レーサーマシン。昭和27年に完成。 日本のオートバイ技術向上に寄与することを目的としているオートレースでありながら、メグロ以外の国産車が参加しなくなるという状況に 危機感を持った通商産業省により、レーサーマシンの研究開発命令が国内の主要二輪車メーカーに対し公示され、この時に交付が実施された 補助金によりメグロが製作したのがこの車。 機関は当時の市販車Z型に準じているが、鋳造部品ではなく鍛造により造られている。その理由は衝撃強度の確保である。急加速への対応も 考慮し吸気効率を上げる為にインレットバルブは市販車に比べ大径になっている。 また熱対策も重要で、ヘッド部の放熱効果を高める為にオイル室を大きく取っている。その為、市販車に比べ異様に大きなエンジンヘッドが オートレーサーの特徴となり、タペットカバーに付けられたMWマークと共に印象的である。 クランクロッドも徹底した軽量化の為にジュラルミンの鍛造。カムプロフィールはレーサーらしく吸排気効率の良いハイカム形状。排気管は エキゾーストパイプのみでマフラーは無い。ボア×ストロークは82×94のロング。 レーサーとしての開発項目は機関だけではなく、むしろシャーシに対する比率が高い。これは、当時オーバル800mダートを左回りで高速周回 するというオートレースの特徴により、コーナー時の安定性を向上させる為に左ハンドルを高くした。そして全体にアップで幅が狭くして、 操作性を良くしている。 ブレーキは無い。オートレースの不振要因のひとつが多発した接触落車による事故。これを防止する為に接近戦での勝手なブレーキ操作が 出来ないような考慮とされた。その代わりキャブレターは特殊な構成になっていて、アイドリングのしないシャッターが完全に閉じる構造に よってエンジンブレーキが効くようになっている。 トランスミッションはローとハイの2速のみ。押し掛けスタートであるためキックスターターも無い。これらの仕様はレースの安全な実施に 大変効果があると認められて、その後から現在に続くオートレーサーの基本仕様として継承されている。 フレームは強度のあるモリブデン鋼管を用い、材厚も市販車の5mmに対して2mm以下とし、軽量化を図っている。フロントフォーク角度の設定 も、21°30'として市販車よりもかなり浅く、短い軸間距離と共にコーナーを廻り良くする工夫がなされている。燃料タンクは基より レース時間分容量で十分なので10リットルと小さく、出来るだけ軽量化している。マグネトー点火、スプロケット減速比1:6.17。総じて 無駄なく機能本位である。 当時、オートレースの出場車は選手個人で市販車を改造したモノと、メーカーが製作したモノに専属選手を乗せる場合との二通りであった。 レースに出る為には、開催期間当たり20〜30万円という高額な経費が掛かっていたので、選手個人で出るにはスポンサーが必要であった。 オートバイメーカーにとっては、市販車の開発に伴う品質改良などテストするというのが出場目的ではあるが、宣伝効果もそれなりに期待 出来ることもあって、メグロは特に積極的ではあった。そして、その後もオートレースとの関わりを深めていった。 オートレース開始直後は内外数十種ものマシンがあったものが昭和29年頃には数種類に。国産車はメグロの他にはホンダとポインターのみ となって、後は全てハーレー、AJS、ノートン、JAP、トライアンフなど外国車を選手個人が改造して使用するといった状況であった。それらの改造車は機関 のみを流用してフレームは選手個人が製作して使っているというものであった。 何れのケースでも、各選手の技量と共にレーサーマシンの技術ノウハウが勝負を大きく左右するのは言うまでもないが、当時より既に、カム プロフィールに関わる研究と開発が一番影響するとの認識がされていたようである。また選手達の中から、後の国内アマチュアレースを経て 海外の国際オートレースへと飛躍して行く者が多く出た事など、オートレースは現在日本のモータースポーツの原点であったとも云えよう。 メグロのオートレーサーはその後、昭和29年に全国小型自動車競走会連合会によって輸入、技術参考とされたJAPエキセルシャーにより、 500cc単気筒OHV4サイクル機関(RC型)を開発し、オートレーサーの標準的エンジンとなっていった。 昭和35年の川崎航空機工業との業務提携により、メグロのレース部門は廃止となるが、オートレース関係者により事業の継続がなされて、 昭和38年4月ニュー・メグロ(株)として独立。昭和39年のメグロ整理により本家が消滅した後も、メグロのブランドはオートレーサー マシンとして、その後さらに事業を継続したメグロ発動機(株)へと引き継がれる。 この間に500ccクラス(2級車)は単気筒OHC4サイクル機関(MP型)に進化、また3級車(練習用)の350cc:単気筒OHC4サイクル機関と 1級車用の600cc:単気筒OHC4サイクル機関(MF型)もラインナップに。 650ccクラスもトライアンフからの部品入手難によりトライアンフ型の1級車用650cc:二気筒OHV4サイクル機関(MR型)を供給している。 昭和63年にHKSがニューフジ二気筒の供給を開始すると、それまでメグロのエンジンに拘っていた選手が新エンジンに乗り替えてしまい、 メグロエンジンのシェアが低下。そのためこれにほぼ類似した、605cc二気筒DOHC4サイクル機関(MW型)を新たに開発して対抗したが、 平成5年、安全で安定的に供給されるエンジンを選手会から要望された日本小型自動車振興会では、新型機関開発と機関統合を決定し、選考 によりスズキが開発した新型機関「セア」が10月よりメグロなど他ブランドに置き換わり使用されることになった。 このため、当初存続はこれ以上不可能と思われたメグロのブランドの継承であるが、奇跡的に練習用機関の供給と、オートレース用機関の 整備業務により事業継続がなされた。 しかしながら、その後に従業員の高齢化を事由に活動停止となり、現在は「メグロ発動機」の商標登録のみが平成18年より管理継承され、 残されて在る。 ・・・主要諸元・・・ ・ブルー・メグロ ・全長:−mm ・全幅:−mm ・全高:−mm ・軸間距離:1350mm ・車輌重量:195kg ・機関型式:単気筒OHV4サイクル ・総排気量:496.5cc ・最大出力:28HP/5500rpm ・最高速度:100km/h ・燃費:不明 ・変速機:前進2段 ・タイヤ:(前)3.00×20 /(後)3.25×19 ・始動方式:押し掛けスタート ・メグロ2級車用エンジン・MP型 ・機関型式:単気筒OHC4サイクル ・総排気量:512cc ・最大出力:45HP/7500rpm ・最高速度:−km/h ・燃費:不明 ・メグロ1級車用エンジン・MR型 ・機関型式:二気筒OHV4サイクル ・総排気量:650cc ・最大出力:61HP/7500rpm ・最高速度:−km/h ・燃費:不明 ・メグロ1級車用エンジン・MW型 ・機関型式:二気筒DOHC4サイクル ・総排気量:605cc ・最大出力:56HP/7500rpm ・最高速度:−km/h ・燃費:不明