〜メグロの履歴室〜:カワサキメグロの時代(2)  カワサキメグロ製作所の発足に拠り、カワサキとメグロの融合は新商品の開発に於いても始まって居た。 最上位モデルに在った500cc・Kスタミナの後継機種開発がスタートする。此れには二年後に迫った東京五輪の 警備用に、警察庁からの白バイの大量発注が見込まれるとして定期株主総会と同じ昭和37年11月29日に両社 の設計技術担当者に拠る合同検討会議が横浜本社工場内に於いて開かれた。 この席上には他に販売代理店組織「メグロ会」の元代表者、製造工場代表も加わり、カワサキに拠る初めての大型 4サイクルオートバイの開発と為った。 この時点に於いては未だ具体的な仕様の策定までには至らず、まずは白バイ需要を前提としたモデルの位置付けに 対し、  ・新型白バイの性格付け  ・同、意匠  ・同、性能  ・保守条件  ・基本仕様  ・製造条件  ・価格  ・営業目標  ・開発スケジュール 以上のような項目に関し討議されて、以下の要点がまとまった。  ・性格付け及び意匠は従来のZ7PやKPと同じく、白バイとしての威厳を保つよう貫禄の在ること。  ・性能は現行モデルのKPより向上すること、特に加速性を重視。  ・保守性は良いことが望ましいが、性能向上を重視した際の制約は止む無しとして、性能向上を優先とする。  ・基本仕様として時流に合せたユニットエンジン式に革めるべきだが、今後の検討に持ち越しとする。  ・価格、販売目標は現K型の如く白バイ需要を見込んだ実績から勘案する。 そして、これ等の事案について出席者の分担課題として次回の検討会議までに調査と取りまとめをする旨とされた。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   第二回検討会議は同年12月21日に開催された。 この席上に於いて実際に白バイ乗務する隊員の意見が報告され、来るべき高速道路時代に即した高加速性能を有す 近代的なオートバイに期待する内容の一方で、今後の交通取締りには四輪車が主に用いられるように為るとの予測 から白バイ用途は従来の一般道路でのパトロール程度に限定されるとする向きの内容も視られた。また国内唯一の 大型オートバイメーカーに対する期待として、高性能な外国製大型オートバイに匹敵する白バイの開発を要望する 内容もあり、新型白バイ開発への関心の高さも垣間見える報告で在った。 販売代理店への聞取り調査の報告では、メグロ車は従来の仕様を変えるべきでは無く実用性を重視した低速トルク に重きを置いたモデルを要望し、特に地方の販売店でその傾向が顕著に在り相変わらず保守的なメグロ車ユーザー の特徴が視られた。 白バイ需要の実態も報告がされて、昭和36年度のメグロKP販売実績は主要6都市では80台に対し新たに参入 してきたホンダの白バイモデル・CP77(305cc)は49台、一方で地方県警ではKPが145台に対しCP 77が194台と逆転して居た。戦前期から白バイ需要が在った都市部に対して、道路整備がまだ不十分な地方部 では警ら用途に向く軽量な中型オートバイの方が適して居た状況が明らかになると共に、白バイ需要に安穏として は居られなくなって在る状況もうかがい知れた。  (当時この状況に対抗して、メグロは250cc・S7を白バイに特装した仕様を地方県警向けに用意して居た) これ等の調査報告を基に検討された結果として、 ・フレーム、外装の意匠については従来モデルを基本に継承する。 ・性能向上に向けてのエンジン仕様は次の二点で仮決定として細目は今後に詰める。  1、従来の別体式(エンジンと変速機を分離)とユニット式(一体式)で比較して、重量の軽減ではユニット式    に軍配が上がるが、工程上の利点(生産効率や歩留率)を考慮すると従来の別体式が現実的。  2、従来のOHV式より時流のOHC式が性能向上に向くが、カム駆動のチェーンの耐久性を勘案するとOHV    での更なる性能向上は可能。(現行のK型でも150km/hで在ることからチューンアップで180km/h程度    の向上は期待できるとの見立て)    また時流のセルスターターはオーバースペックとして従来とおりに未搭載とする。 ・白バイ需要に対応したモデルでは在るが、一般仕様も準じた内容とする。 ・スケジュールは、東京五輪の開催(昭和39年10月)に間に合わせる必要から量産を遅くとも昭和39年4月  までに開始とする。そのためには翌38年1月には結論をまとめる必要が在る。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   以上の決定事項に拠り、K型の後継機種開発の方向性は視えて来た。 しかしそれは、新型後継機種の開発は進めるものの、本来の目的でも在った東京五輪の警備用としての白バイ需要 向けには到底間に合わないと云う現実で在った。                                               (つづく) (*この文章は、二輪史研究会資料「メグロ資料集」         二輪史研究会資料「メグロコレクション」         二輪史研究会資料「メグロ製作所社史」         八重洲出版「日本モーターサイクル史1945-1997」より「懐かしの名車STORY“メグロ物語”」         三樹書房「カワサキ“モーターサイクルズストーリー”」小関和夫・著         山海堂「W1 FILE〜MEGURO'60−KAWASAKI'73」蔦森樹・著         毎日新聞社「The Bike」より「時と人・バイク風土記(蔦森樹・編)」  より参照、構成しています。) (*登場者の敬称は省略させていただきます。)