〜メグロの履歴室〜:メグロ終焉期(13)  昭和37年5月30日、定例の第43回定期株主総会に於いて、任期満了となる取締役と監査役の改選を議決し、 次のとおり選任されて就任した。   取締役 鈴木高治  (重任)    同  小川卓三  (同)    同  鈴木武雄  (同)    同  渡辺英太郎 (同)    同  渡部茂三郎 (同)    同  角田芳治  (同)    同  井口 寿  (同)    同  村田敏夫  (同)    同  小栗正一  (同)    同  萩原徳憲  (同)   監査役 東野公一  (重任)    同  告野端午  (同) また株主総会終了後に取締役会を開き、代表取締役などの改選を決議する。   代表取締役社長 鈴木高治   専務取締役   小川卓三   常務取締役   鈴木武雄 暫く会社代表代理で在った、専務の鈴木高治がそのまま社長として就任。 前年の混乱収拾と、村田延治社長の死去に伴い空席で在った代表ポストの後任選出に主眼が置かれたような布陣に 視られるが、会社経営の実務を担う専務取締役として川崎航空機工業出身の小川卓三が就きよりカワサキ主導での 経営再建が図られることが明確化する。 そして早々の6月には長期事業計画及び合理化強化案の策定が為される。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   長期事業計画としては新たなオートバイ開発が掲げられた。 まず東京五輪の開催を間近に控えて都市圏での好況から道路交通の混雑激化により、オート三輪や貨物自動車での 配送に遅滞が増すようになり、また交通行政の法規強化から駐車取締りや車庫証明の義務化となり再び実用二輪車 が注目されるようになったことから、これに適した重量貨物運搬対応の実用向けオートバイの開発に着手。 一方では主力製品で在る250cc・S7の次期モデル開発に着手することとして時流に合せたスポーツ仕様モデル と従来型の仕様を継承するモデルの検討が盛り込まれる。 そして合理化強化案では、直接(生産)部門と間接部門の人員比率適正化、そして関係会社を含む外注購買部品の 内製化が掲げられた。  これら事案は早速に全社内に開示されて、管理職員並びに新旧労組の組合員への協力要請と協力支持を得た上で 6月14日には鈴木社長以下役員4名が川崎航空機工業の岐阜事業所まで出向き、川航は社長、専務、常務の出席 する席上で詳細を説明するとともに、事業計画の達成に向けての更なる業務援助を要請する。 メグロの業績は切羽詰まるところに着て居たので在った。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   合理化強化案に沿った動きは早く、エンジンの製造を一手に受けて居た関係会社の鰹コ和機械製作所と、同じく フレームの製造先関係会社の椛蝌a製作所に対して其々への発注を取り止めて内製とすることを決定し両社の了解 を得た。此れによりエンジンの製造は目黒製作所烏山工場に移管されて同年9月より量産を開始、フレーム製造も 新設の横浜新本社工場にて同年末には移管を開始し大和製作所からは工員6名が転籍して作業に掛った。 ただ業績は日を追うごとに悪化して居り、製品在庫の調整を目的に同年7月と8月の横浜新本社工場での製造計画 を白紙としてオートバイ組立作業を休止、従業員は未だ未整備で在った工場敷地内の整地工事などに従事した。  この状況を打開するためにも一日も早い新製品とそのヒットが待望されて居た。 7月3日、横浜新本社に於いて新型オートバイ開発を旨とした技術研究会を開催し長期事業計画に盛込まれていた 250ccスポーツ仕様モデルの開発検討が為されて、その骨子が定められた。  @スポーティーなスタイル  A機関はミッション組込み単体式  B機関は4サイクル単気筒OHVセルダイナモ装備  Cペダルは右側ブレーキ左側ギヤチェンジ  D機関の特性はS7程度、低速トルクを維持しつつ、最高出力15馬力以上 この仕様に沿った新型車の試作を年末までに完成して引続き十分な耐久検証テストを実施する旨、決定する。 そして従来型の仕様を継承する新型オートバイ開発も討議されてS7をベースにS3ライクな仕様とする旨、決定 も併せて為された。  待望のニューモデル第一陣が登場したのは漸く10月に入ってから、重量貨物運搬対応の実用オートバイとした 250ccモデル・AT「オートラック」はS3仕様のフロントに10in/5.2という小径極太タイヤ、低めで広い 荷台という特異な外観で今の搬送用三輪バイクのルーツのようなモデルができあがり「五十貫トラック」の異名を 得ることとなる。早速に10月25日より開催された第9回東京自動車ショーで一般に公開されたのだがこのとき 既に目黒製作所の行方は"その次"が決定付けされて在ったのだった。                                               (つづく) (*この文章は、二輪史研究会資料「メグロ資料集」         二輪史研究会資料「メグロコレクション」         二輪史研究会資料「メグロ製作所社史」         八重洲出版「日本モーターサイクル史1945-1997」より「懐かしの名車STORY“メグロ物語”」         三樹書房「カワサキ“モーターサイクルズストーリー”」小関和夫・著         山海堂「W1 FILE〜MEGURO'60−KAWASAKI'73」蔦森樹・著         毎日新聞社「The Bike」より「時と人・バイク風土記(蔦森樹・編)」  より参照、構成しています。) (*登場者の敬称は省略させていただきます。)