〜メグロの履歴室〜:メグロ終焉期(8)  昭和36年3月8日、目黒製作所経営陣による76名整理の人員削減に反発して24時間の全面ストライキに突入 した旧労組加入の従業員は、社外への強制退出を命令通告して全面ロックアウトを行使した経営陣に対抗し本社工場 と烏山工場に立て篭もり、占拠して全ての入場口に障害物を置きバリケードを構築、就業不能に追い込んだので在る。  目黒製作所経営陣は旧労組から脱退して新たに結成された新労働組合(第二労組)加入の従業員を以て一部操業を 開始しようと試みたが、これに旧労組側は本社工場と烏山工場の周囲に旧労組加入の従業員による人垣を作ってピケ を張り、工場の入場口に築いたバリケードの突破阻止と製造材料の搬入および製品搬出の阻止妨害と云う実力行使に 入った。工場の周辺には赤旗が翻り旧労組従業員のシュプレヒコールに罵声が飛び交い騒然となった。  これには経営陣のみならず公安機関も放置しておくことがならず、ピケを張る旧労組従業員と公安職員の睨み合い と成し、目黒製作所の問題から社会的事件へと発展してしまったので在る。所謂、「目黒争議事件」として同時期に 発生した「三井三池争議」と並び重大な社会問題とされたので在った。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   この事態を放置していた訳もなく、ストライキ突入の翌9日には本社工場内への旧労組従業員立入禁止の仮処分を 東京地方裁判所に提訴していたが、同29日になり漸く立入禁止の仮処分決定の判決が下りる。これを受けて直ちに 経営陣は、本社工場内を不法占拠する旧労組従業員の排除を同31日に実行、工場には約600人もの機動隊が出動 して強制排除の実力行使にあたったので在る。不幸にして国内の労働争議で機動隊が出動したのはこのときが初めて であった。機動隊により工場内で占拠中の旧労組従業員は一人ずつ強制排除されて所定の場所に移され、当日中には 不法占拠が解かれて管理職員と新労組従業員が出社入場して、漸くに就労を開始することができた。しかし工場内の 食堂棟とトイレは旧労組側が閉鎖を続けたため、就労従業員は用をたすことができず簡易的にドラム缶を用意して代 わりとしたと云う。  一方で烏山工場では、4月4日に宇都宮地方裁判所に旧労組烏山支部加入従業員に対しての立入禁止仮処分を提訴 したが同28日に却下の判決が下り経営陣は直ちに東京高等裁判所に控訴。同時に強行して立て篭もる旧労組従業員 の排除と新労組従業員の就労を試みるが、依然として旧労組側の抵抗激しく、人垣とドラム缶を並べ立て就労を阻止 したので在る。烏山工場にはメグロの主力製品である250ccモデル組立ラインとトランスミッション生産の全てが 在り、本社工場が再開できても組み立てる部品の多くが烏山工場に依存して在る以上、生産に支障を期した。  急遽、烏山工場での工程を本社工場とその協力各子会社工場に移管して生産を再開することになる。移管工程には 烏山工場から新労組従業員が出向して応援に当たり、それでも不足する部品は業務提携先となった川崎航空機工業に 協力を要請した。どうにか生産体制は復旧するが急拵えの工程は支障も少なからず起こり、満足の行く生産ができな い状況が続き業績悪化に拍車を掛ける。同時期生産の250cc・S7を視ると部品の仕上げを簡略して在る等、影響 を垣間見ることができる。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   5月に入っても旧労組従業員による就労妨害は甚だしく、特に違法行為に及ぶに至った際の責任を有する者10名 に対し5月2日付けで労働協約と就労規則の違反により懲戒解雇処分に附して強行姿勢を明確に示した。しかし肝心 な会社再建案は、これに関する合理化案に沿った人員削減76名整理の協議が旧労組の拒否に阻まれ硬直状態のまま 進展がなく、川崎航空機工業との業務提携に基いた援助条件の達成期日も迫りつつ在った。已む無く、経営陣は5月 14日に新労組との間でのみ正式に人員削減案についての妥結調印を取り交し、整理基準に準じて新労組従業員7名 (本社工場)の退職が成される。そして旧労組側に対しては一方的に5月15日付けで本社工場の27名と烏山工場 の20名を整理基準に準じて指名解雇処分とし、通知書を各人宛に内容証明郵便にて送付することで解決を図ろうと した。  この経営側の行為に激怒した一部の旧労組従業員多数が同16日早朝に本社工場へ乱入し、当直勤務の社員へ暴行 行為ならびに建屋と器物への破壊行為に及ぶに至り、同20日に6名、24日に4名が所轄の大崎警察署に逮捕拘留 される事件が発生する。  もはや尋常ではない状況に陥った目黒製作所は騒ぎを収拾できないまま、不完全ながら生産活動をせざるを得ない ので在った。                                               (つづく) (*この文章は、二輪史研究会資料「メグロ資料集」         二輪史研究会資料「メグロコレクション」         二輪史研究会資料「メグロ製作所社史」         八重洲出版「日本モーターサイクル史1945-1997」より「懐かしの名車STORY“メグロ物語”」         三樹書房「カワサキ“モーターサイクルズストーリー”」小関和夫・著         山海堂「W1 FILE〜MEGURO'60−KAWASAKI'73」蔦森樹・著         毎日新聞社「The Bike」より「時と人・バイク風土記(蔦森樹・編)」  より参照、構成しています。) (*登場者の敬称は省略させていただきます。)