〜メグロの履歴室〜:メグロ終焉期(1)  いよいよ1960年代になり、世界情勢は冷戦下の東西陣営による諍いの激化に伴い民族紛争に発展した地域も 在り緊迫して居たが、やがて冷戦安定期を迎えつつも在った。こうした中で日本は工業製品の海外輸出が大きく進展 して景気も上向きだして居た。とりわけ、1964年のオリンピック大会が東京で開催されることに決まるや否や、 国内の巨大プロジェクトが多数立ち上がったことで内需も大幅に拡大が見込まれた。特に東海道新幹線と名神・東名 の高速道路建設、東京の首都高速道路建設は否応無しに注目されたので在る。これを境に日本は高度成長期を迎える ので在った。  このような状況に在って自動車業界では四輪車が飛躍的成長を迎える。自動車メーカーは誰でもが手の届く国民車 を挙って開発、「ブルーバード」「コロナ」と云った御馴染みのクルマが街中を走るのも珍しく無くなっていった。 その一方でそれまで「国民の足」となって重宝された二輪車は、経済的に余裕のできた中間層消費者の趣向品として スポーツモデルに、或いはホンダ・スーパーカブの如く自転車に代わるモペットモデルに需要が変化して、小型車を 中心に需要が拡大。人気モデルを得た一部の二輪車メーカーが量産態勢を採って生産台数を嵩上げする一方で、それ まで二輪車の主流で在った実用モデルは殆ど顧みられなくなり、多くの二輪車メーカーがこの変化に対応しきれずに 撤退・廃業し、残るのは数十社にまで減って居た。  昭和35年4月にはホンダがスーパーカブを中心とした生産体制を整えるべく、三重に年間生産能力100万台を 誇る鈴鹿製作所での操業を開始。同年までのスーパーカブ累計生産台数は75万台に達して居た。昭和35年の国内 自動二輪車総生産台数は100万台を突破(1,179,300台)して、それまで世界1位で在ったフランスを追い 抜いて世界一のオートバイ生産国と成ったので在るが、実にスーパーカブの年間生産台数はその36%にも達した。 メグロはと云えば昭和35年の総年間生産台数が占める割合が僅かに1%ほどで、これは昭和32年の4%からも更 に落として居る。 昭和32年にはまだ43社在った二輪車メーカーが同35年初には26社にまで淘汰され、年末には更に5社が撤退 ・廃業して21社になって居た。その5社には二輪車の雄、陸王モーターサイクルやトヨモーターと云った一時期に メグロ以上の業績を挙げて居たメーカーも在った。 その辛うじて残った中に在った目黒製作所では在るが、もはや例外無く、国内二輪車メーカーをリードできるような 状況では無くなって居たのである。変化を始めようとした矢先の躓きから未だ立ち直るきっかけも現れない中そして いよいよ終焉へのカウントダウンが静かに始まろうとして居た・・・・・  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   昭和35年5月30日、第39定期株主総会を開き取締役3名の増員と任期満了に伴う監査役の改選を行い、次の 通り選任されている。   取締役 村田延治    同  鈴木高治    同  鈴木武雄    同  告野端午    同  井口 寿    同  村田敏夫    同  鈴木滋治    同  小山利男    同  萩原徳憲    同  渡辺英太郎 (新任)    同  浜田栄司  (新任)    同  角田芳治  (新任)   監査役 東野公一  (新任) これに先立ち、昭和34年春より病気療養中で在った大江友重 取締役が3月13日に逝去。同15日において社葬が 執行された。後を観れば、この出来事はメグロにとって不幸の序章のようでも在った。 昭和35年3月期決算の配当実績は前年の増資にも関わらず更に低下している。経営陣はこれの責任を取るかたちで 配当の一部を辞退した。       ・昭和35年度配当記録          3月期決算:第39期・・・・・・・・・年1割8分 (役員持株分:年1割)          (前年同月期:第37期・・・・・・・・・年2割5分) また株主総会終了後に取締役会を開き、取締役々員再選を決議して居る。   代表取締役社長 村田延治     同  専務 鈴木高治   常務取締役   鈴木武雄 目黒製作所の経営は変らぬ布陣に委ねられたが、後にこれが最後に成ろうとは未だ予感すら見られなかった。                                               (つづく) (*この文章は、二輪史研究会資料「メグロ資料集」         二輪史研究会資料「メグロコレクション」         二輪史研究会資料「メグロ製作所社史」         八重洲出版「日本モーターサイクル史1945-1997」より「懐かしの名車STORY“メグロ物語”」  より参照、構成しています。) (*登場者の敬称は省略させていただきます。)