〜メグロの履歴室〜:オートバイメーカー「目黒製作所」(4)  「朝鮮動乱」により日本国内が特需に沸き始めると、戦前期の小型三輪自動車メーカー隆盛の頃のように新規オートバイ メーカーが誕生する。多くは市場が拡大を始めた軽二輪車(150cc以下)のアセンブリーを主とした急造メーカーで、良くて 車体は作るが機関は仕入れ、場合によっては車体も仕入れて後は組立だけというメーカーであった。  月産5台以下の「5台メーカー」などと揶揄されるような町工場が殆どであったが、戦時中に軍需工場として従事した 町工場が持っていた技術力をすれば、こうした軽二輪車の組立など大したことではなかった。  50cc以下の小型発動機を仕入れて自転車のフレームに付けた「原付」メーカーも多く現れたが、中には鈴木式織機製造 (スズキ)のように比較的規模の大きな企業の参入もこの頃である。民生産業への事業転換や不況で危機に瀕していた繊維 産業などの企業が新興事業としてオートバイへの参入を選択した。そしてメグロの中からも軽二輪車メーカーが誕生する。 「エーブモーター」である。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   メグロが得意とする高額な自動二輪車(300cc以上の大型バイク)は軽二輪車のように需要と結びつながってはなかった。 「エーブモーター」は「目黒製作所」で取締役まで務めた阿部理八が起こしたメーカーである。阿部は製造現場を管理して いたが、その能力を活用して150cc以下の小型オートバイを企画すれば必ず商売になると考えた。だが「メグロ号」Z型 を主力に考える社長・村田延治は否定的であり実現しない。それではと阿部は昭和25年に独立を決意、「阿部」を英語読み した社名をつけてエーブモーターとしたのである。ただ阿部はメグロと反目するのではなくメグロを活用して事業展開を 進める。早速メグロに150ccオートバイを注文して開発させたのである。機関は4st・SV、車体までの完成車として作らせた。 エーブスターA1と付けられたこのバイクが「目黒製作所」が手掛けた最初の市販小型オートバイとなる。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   エーブスターA1の成功により、村田も小型オートバイ市場が無視出来ないと判り、この需要に目を付けアセンブリー メーカーへのエンジン供給を企画する。阿部がエーブスターBRという150cc小型オートバイを企画、新規にメグロ で開発させた4st・OHVエンジンを、村田はメグロ製エンジンとして外販を開始、「BHK」と名付けた。  軽二輪車(150cc以下)のアセンブリーメーカーをターゲットにしたエンジン外販メーカーが出現し始めたのもこの頃の 特徴である。その主な供給元となったのは「原付」先行メーカーであるホンダやトヨモーターなど。加えて、エンジン外販を 専門に始めたガスデンや日本内燃機製造などが現れて、多くのアセンブリーメーカーに機関の供給をしていったのである。  メグロ「BHK」エンジンも、外販開始と同時に注目され多くのアセンブリーメーカーから引き合いを得る。特に機関供給元 が少なかった関西のメーカーからは、メグロ製エンジンというブランドも有ってか多くの需要を得た。「BHK」機関を使った 主な供給先メーカーとしては、       ・関西地域                    ・関東地域          (株)センター製作所                エーブモーター(株)          大阪ゼット工業(株)                モナークモーター(株)                                   共立発動機(株)                                                 などであった。 そして当時としては高性能でブランドでもあるメグロ製エンジンは評判になり、以後各アセンブリーメーカーの自主開発 や小型オートバイブームの競合で淘汰されはじめる昭和28年頃まで、「目黒製作所」を支える製品となっていたのである。 そして更に村田は小型二輪車の有望なる市場を期待して新たなオートバイの新規開発を決意する。                                                 (つづく) (*この文章は、二輪史研究会資料「メグロ資料集」         二輪史研究会資料「メグロコレクション」         二輪史研究会資料「メグロ製作所社史」         八重洲出版「日本モーターサイクル史1945-1997」より「懐かしの名車STORY“メグロ物語”」         三樹書房「日本のオートバイの歴史」富塚清・著         日本経済評論社「日本の自動車産業」四宮正親・著  より参照、構成しています。) (*登場者の敬称は省略させていただきます。)