〜メグロの履歴室〜:オートバイメーカー「目黒製作所」(3)  昭和25年に入っても日本の経済状況は「ドッジライン」による金融引き締め・インフレ抑制が足かせとなり、倒産する 企業が多く不安定であった。「目黒製作所」でも取引先や資材の仕入先が倒産するなど影響を引きずっていた。主要客先の 東洋精機が売り上げ不振で危機に瀕していたである。東洋精機は新たに三井精機として小型三輪自動車「オリエント号」 の製造を引き継ぐことになり危機は逃れることになったが、もはやメグロにとって「メグロ号」だけが頼りになっていた。 そのためにも販売網組織「メグロ会」の充実は欠かせないとして、代理店会員の入れ替えや新設が行われている。 ・「メグロ会」会員の動向(昭和25年)    (解約)                          (新設)    福島地区・・・・・・・・・・・・佐藤モータース商会           栃木地区・・・・・・・・・・・・渡徳モータース商会    九州地区・・・・・・・・・・・・藤壺モータース商会           茨城地区・・・・・・・・・・・・茨城くろがね商会    東京地区・・・・・・・・・・・・サン自動車サービスステーション     千葉地区・・・・・・・・・・・・(株)千葉くろがね商会                                  東京地区・・・・・・・・・・・・目黒モータース                                  九州・山口地区・・・・・・・新出光(株)  改選により、「メグロ会」の会長には北海道地区地区総代理店の(株)金子モータース商会社長・金子清一氏が就いた。     −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   社長・村田延治は低迷する業績の中、少しでも経営体質を強化するべく終戦後に立法された企業再建整備法による特別 経理会社整備のため9月28日臨時株主総会を開催し、資本金の調整を議決する。  企業再建整備法は、いわゆる戦時体制協力企業が終戦後の平和産業への事業転換に際して伴う損失(軍事生産設備廃棄・ 戦災による資産損失・事業転換に伴う資本の減少など)を補うために、特別経理会社の指定を受けて、資本整備を行うもの である。「目黒製作所」は資本比率の株主割当を引き上げるため、戦時損失資産22万円(資本金の20%)を減資の上、82 万円を増資、株主割当とした。これにより資本金は170万円となった。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   だが同じ頃、低迷する日本の経済状況を一変させる状況が進行しつつあった。昭和25年6月、兼ねてから緊張状態に あった朝鮮半島で動乱が勃発していたのである。日本に進駐していた連合国軍の主軸である米軍部隊が、日本を足掛かり として朝鮮半島へ進軍したのである。再度日本が戦場となる恐れも危惧されたが、戦況は次第に米軍部隊を中心とした 国連軍が優勢となると必要な物資の調達先が戦場に近い日本に集中したのである。いわゆる朝鮮特需によって「ドッジ ライン」で疲弊した経済が次第に活発化して行くのであった。  「朝鮮動乱」による影響はオートバイ業界でも例外ではなかった。特需による資材統制撤廃が各種産業にも好況を呼び、 運送を目的としたオートバイの利用を促進させて、需要が増え始めたのである。しかも作れば売れる状況へと市場が活性 化してきた。「メグロ号」を合わせて5社程度だったオートバイメーカーに加えて、新規に参入するメーカーが現れ始め るのがこの頃である。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   当時、物資運搬の主役は四輪車以上に自転車が活躍し、これに小型発動機を自転車のフレームに付けた「原付」の需要が 急速に増してくると「原付」は自転車販売店を通じて市販され庶民に一番身近な乗り物となった。更にホンダがオートバイ 専用設計の車体を持った小型二輪車を発表すると軽二輪車の市場は急速に拡大を始める。軽二輪車は都市部で需要のあっ たスクーターに比べ、比較的大径のタイヤが使われたことから運搬にも優れ、道路が未だ整備されない地方の悪路で重宝 され、やがて二輪車の生産台数は軽二輪車によって急速に拡大するのであった。                                                                      (つづく) (*この文章は、二輪史研究会資料「メグロ資料集」         二輪史研究会資料「メグロコレクション」         二輪史研究会資料「メグロ製作所社史」         八重洲出版「日本モーターサイクル史1945-1997」より「懐かしの名車STORY“メグロ物語”」         三樹書房「日本のオートバイの歴史」富塚清・著         日本経済評論社「日本の自動車産業」四宮正親・著  より参照、構成しています。) (*登場者の敬称は省略させていただきます。)